不整脈の種類と治療
心臓は全身に血液を送る「ポンプ」として、膨らんだり(拡張)、縮んだり(収縮)を絶えず繰り返しています。「心臓のきほん」で説明しているとおり、心臓は右心房、右心室、左心房、左心室の4つの部屋に分かれていますが、それぞれがバラバラに動くと、効率よくポンプから血液を送り出せなくなってしまいます。効率よく血液を送り出すためのリズムが「脈」です。
正常の脈は等間隔
脈は手首の親指側で触れることができます。正常の脈は等間隔で、大人で1分間に50〜100回ぐらいです。赤ちゃんは心臓が小さいので脈が速く120〜150回ぐらいで、成長すると徐々に遅くなります。
1分間に60回の脈拍数だと、1日に60回×60分×24時間=86,400回も脈をうっていることになります。
「不整脈」は正常ではない脈のことですが、脈が等間隔でない時だけでなく、脈が正常よりゆっくりだったり、速すぎたりする時も不整脈です。
1.心臓はどうやって脈をうっているの?
心臓の中には電気の通り道があり、電気が通り道にそって順番に伝わることで、心臓の4つの部屋がリズムをとって効率よく動いています。その電気の通り道のことを「刺激伝導系」と言いいます。刺激伝導系は、主に4つの場所にわかれています。それぞれの場所の役割や不整脈の種類がわかりやすいように、心臓の中を「会社」に例えて説明したいと思います。
心臓の中を電気がどのように通っているかを調べる「心電図」の波形は、刺激伝導系の中の4つの場所に電気が伝わった時に波ができます。左心室や右心室は「心筋」でできていて、たくさんの部下たちが一斉に同時に動いて心臓が縮むことでポンプの役割を果たします。この瞬間が一番大きな波になります。
2.不整脈の種類
不整脈の種類は、「脈の速さ」と「不整脈の原因の場所」の2つで分類します。
まず「脈の速さ」の分類ですが、大人の正常の脈拍数は1分間に50〜100回です(赤ちゃんや子どもはもっと速いです)。正常の脈拍数より遅い時を「徐脈性不整脈」、正常より速い時を「頻脈性不整脈」と言います。
脈の速さ
次に「不整脈の原因の場所」の分類ですが、社長や部長、課長など「上司」が原因の不整脈を「上室性不整脈」、部下が原因の不整脈を「心室性不整脈」といいます。上司が原因の場合は、部下が完全にはバラバラにはならないため、会社(心臓)が成り立たないほどにはならないことが多いですが、部下が完全にバラバラに動くと会社(心臓)が成り立たなくなる(致命的になる)ことがあります。
不整脈の原因の場所
不整脈の種類を「脈の速さ」と「不整脈の原因の場所」の2つの分類をまとめたものが、下の表になります。徐脈になるのは、基本的には上司が原因です(上司がさぼっている)。よって、不整脈は大きく① 上室性頻脈性不整脈、② 心室性頻脈性不整脈、③ 徐脈性不整脈、の3つに分けられます。
3.不整脈の治療
不整脈の治療は、不整脈の種類によって違います。
① 上室性頻脈性不整脈(上司が原因の脈が速い不整脈)
上司が命令を出し過ぎたり、上司の命令がバラバラだったりすることでおきる不整脈です。時々急に不整脈になる(発作性)の場合は、不整脈の時間が短い場合は治療をせずに様子をみることもありますが、不整脈の時間が長かったり、頻度が多かったり、不整脈になった時に具合が悪くなる場合は、治療が必要になります。上室性頻脈性不整脈の主な治療方法は「不整脈を抑える薬(=抗不整脈薬)」か「アブレーション治療」です。
抗不整脈薬は、入院せずに外来で治療できることが利点ですが、あくまで不整脈が起こらないように薬で抑える方法で、原因を取り除く治療ではありません。不整脈が起こらないように抑えるということは、上司の出しすぎた命令を抑える効果がありますが、上司だけでなく部下(=心筋)の動きも抑えらるため、副作用として心筋の動きが悪くなることがあります(心筋抑制作用)。もともと元気な人に使う時はあまり問題になりませんが、先天性心疾患や心臓の機能がよくない人にはおすすめできないことがあります。抗不整脈薬で治療することが適切ではない場合はアブレーション治療を行います。
アブレーション治療は、太い動脈・静脈(主に足のつけ根)から、先端に高周波電流が出るカテーテルと呼ばれる細い管を心臓の中に通し、不整脈の原因となっている場所に、高周波電流でやけどを起こして(焼灼)、不整脈が起こらないようにする治療で、入院して行います。抗不整脈薬と違い、原因を完全に除去できる可能性があることが利点です。一般的に体重が15 kg以上あればアブレーション治療が可能です。ただし、不整脈の種類や原因の場所によってはアブレーションで治療できない場合もあります。
② 心室性頻脈性不整脈(部下が原因の脈が速い不整脈)
部下が原因で速い脈になる心室性頻脈性不整脈の治療でも「不整脈を抑える薬(抗不整脈薬)」や「アブレーション治療」を行いますが、前に説明したとおり、部下が完全にバラバラに動くと会社(心臓)が成り立たなくなります。このような不整脈が数秒間続くと気を失い、数分間続くと致命的になる可能性があるため、すぐに不整脈を止める治療が必要です。気を失って倒れた時にすぐ近くに人がいて、AEDが使えれば不整脈を止めることができるかもしれませんが、近くに誰もおらず、AEDが使えない場合は不整脈は止められません。
体の中に植え込んだ機械で、不整脈を監視して、不整脈がおきた時にAEDと同じように心臓に電気ショックを与えたり、不整脈を止めるための電気刺激を与えたりすることができます。この機械を植え込み型除細動器(ICD:Implantable Cardioverter Defibrillator)と言います。この後に説明する「ペースメーカー」に似ていますが、心臓の中に取り付ける電線(リード)は不整脈の治療をするためのものになります。
③ 徐脈性不整脈(脈が遅すぎる不整脈)
社長の命令が遅かったり、社長が命令を出さない場合(「洞不全症候群」と言います)と、部長や課長が命令を伝えるのが遅かったり、命令を伝えるのをさぼる場合(「房室ブロック」と言います)があります。命令が極端に遅かったり、命令が出ないと心臓がしばらく止まって気を失ったり、止まったままだと突然死の原因になったりします。また脈がずっと遅い状態だと、体に十分に血液が送り出せなくなります。このような時は「ペースメーカー」が必要になります。
ペースメーカーは、命令が遅かったり、さぼったりする上司の代わりに、人工的に機械で命令(電気の刺激)をするものです。電気の刺激を出す「ジェネレーター(電池)」と、電気で刺激したい場所に取り付ける「リード(電線)」でできています。
電線(リード)は①血管の中から心臓の内側に取り付ける方法と、②心臓の表面に縫いつける方法の2種類があります。
電池(ジェネレーター)は皮膚の下に植え込みますが、①肩のあたりに植え込む方法と、②お腹に植え込む方法とがあります。どの方法にするのかは、体の大きさ、リードを取り付ける場所、心臓の形などで決定します。
電線は断線などが起きなければ10年以上使い続けられますが、電池は消耗すると数年に1回手術で交換する必要があります。
リード:①血管の中から心臓の内側に植え込み
ジェネレーター:① 肩(手の付け根)に植え込みの場合
リード:② 心臓の表面に縫い付け
ジェネレーター:② お腹に植え込みの場合
あなたにとって最もよい治療法を、
主治医の先生とよく相談して決めましょう。
最終更新日:2021.11.01