心臓手術を受けた後
1.手術から退院まで
手術が終わると、集中治療室(ICU)に移動します。集中治療室にいる期間は、病気の重さ、手術の内容、病状によってさまざまです。
点滴が少なくなる、呼吸が安定するなど、病状が落ち着いたら一般病棟へ移動します。一般病棟に移動してすぐは、まだ元気がない状態ですが、病状がよくなるにつれて元気が出てきます。
入院中に付き添いができるかどうか、付き添いを開始するタイミングなどは、それぞれの病院の方針や病状によって違います。主治医や看護師の話をよく聞いて、わからないこと、退院後の生活で不安なことがあれば質問するようにしてください。
手術
集中治療室
(ICU)
一般病棟
退院
ここからは心臓の手術の後、一般的に気をつけることについて説明します。
薬をきちんと飲んで、水分制限を守る!
手術の後は、手術のダメージから心臓の調子が回復するまで、または、手術で新しい血液の流れになったのに体が慣れるまで、心不全(心臓のポンプが弱くなっている状態)が続きます。
心不全の主な治療は、
① 心臓の負担をとる薬を飲むこと(利尿薬、血管拡張薬など)
② 水分をとりすぎないようにすること
です。心不全の薬については「心臓病でよく使われる薬」で詳しく説明しています。
おしっこの量や体重、レントゲン写真をみながら、心不全がどれぐらいよくなっているのかを医師が確認し、水分量や薬の量を調整します。心不全がよくなってきたら、水分制限も少しずつゆるくなり、そろそろ退院…ということになります。
子どもにとってミルクや水分を「飲みたいけど飲めない」のはつらいことですが、ご両親が付き添った時には、決められた量が守れるように、少しずつ水分をとるようにしましょう。
小さい子に薬を飲ませる工夫などは、看護師や薬剤師に相談して、いろいろ試してみてください。
今日は500mLまで
だから少しずつ!
また、水分制限のため、手術の後は便秘になりやすいです。便が出にくかったり、お腹を痛がったりするときは、下剤や浣腸などを使いますので、相談してください。
身体を動かして、痰はしっかり出す!
手術の影響で、手術の後は体がむくみますが、体だけでなく肺もむくんで水を多く含んだ状態になるため、痰が多く出ます。痰がたまると肺炎などになりやすくなります。痰はなるべく出したほうがよいので、できればしっかり咳をして出すようにしてください。
また、身体の向きや姿勢を変えたり、体をなるべく起こしたりすると、痰が出しやすくなり、肺の回復が早まります。「手術のあとは安静に」ではなく、歩ける場合は無理のない範囲で歩いたほうがよいです。咳をしたり動いたりすると、胸のキズが痛むこともため、痛み止めを使います。
食事は大事!
回復のために、栄養は大事です。感染の予防にもなります。栄養のバランスを考えられた病院の食事を、なるべく食べるようにしましょう。
病院食があまりすすまない、という時は医師や看護師、栄養士に相談してみてください。
塩分の多いもの、甘いもの、乾燥したもの(おせんべいなど)は、のどが乾く原因になり、水分制限がさらにつらくなるので、注意が必要です。
2. 退院後に気をつけること
退院する時は、完全に回復した状態ではなく「回復の途中だけど、あとはお家で少しずつよくなるのを待っていればよい」状態です。
ほとんどの場合は問題なく自然に回復しますが、時々、退院の時は問題なくても、退院してから悪くなることがあります。特に退院後1ヶ月ぐらいは、下記のようなことに気をつけて、症状があれば病院に相談してください。
心不全
心不全は心臓のポンプが弱くなっている状態です。特に小さい子どもや赤ちゃんは、症状を自分で話せないため、次のような症状がたくさん当てはまるようであれば心不全の可能性があるため、早めに病院に相談してください。
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元気がない、ぐったりしている、機嫌が悪い
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体がむくむ(顔やまぶたなど)
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おしっこの回数や量(赤ちゃんであればオムツ替えの回数)が少ない
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体重が急に増える
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手足が冷たい、じっとり汗をかいている
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顔色が悪い
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呼吸が苦しそう、呼吸が早い、痰がゴロゴロしている、
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食欲がない、ミルクを飲む量が少ない
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おなかが張っている
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吐き気がある、または吐いている
心不全にならないためには?
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退院時に水分制限がある場合はそれを超えないように、水分制限がなければ入院中に飲んでいた水分の量から大幅に超えないようにする。
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塩分を多く含むものを多く食べないようにする。
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毎日できれば同じ時間に体重を測って、急に増えていないかチェックする(赤ちゃん用の体重計はレンタルがあります)。
創部(手術のキズ)
手術のキズは、通常は抜糸が必要ないように外に糸が出ないような縫い方(埋没法)で、数ヶ月経つと溶ける糸(吸収糸)で縫うことが多いです。ただし、管(ドレーン)が入っていた場所などは、抜いたあとに糸で穴を閉じた場合、あとで抜糸が必要なことがあります。
退院する時には問題がなくても、あとから赤く腫れたり、膿が出てきたり、痛がったりすることがあります。
お風呂や着替えをする時にキズを観察して、このような時には早めに病院に相談してください。
感染
手術後しばらくは感染に対する抵抗力が落ちています。感染をすると重症になることがあるため、特に感染症の流行時期(心臓手術を受ける前に 表1参照)は手術後1ヶ月ぐらいは人ごみは避けるようにしましょう。
学校、幼稚園・保育園に行き始める時期は、それぞれの病状で変わります。主治医に確認してください。
また、手術後に咳や痰などの風邪の症状はないけれど、38℃以上の熱が続く場合は、心臓の中や心臓の周りなどに感染が起きている可能性があるため、病院に相談しましょう。
胸骨について
「心臓手術の流れ」のページで説明していますが、心臓の手術をする場合、ほとんどは胸の真ん中をタテにまっすぐ切る「胸骨正中切開」です。
この切開方法の場合、キズを閉じる時に、胸骨を太い糸(小さい子どもの時)やワイヤー(大きい子どもの時)で固定します。ワイヤー(針金)は基本的に抜くことはなくそのままなので、レントゲン写真を撮ると必ずわかります。
骨がくっつくのには少し時間がかかります(骨折した時にしばらく固定しておくのと同じです)。次のようなことは2~3ヶ月は避けるようにしてください。なお、寝返りや、ハイハイ、つかまり立ちなどは問題ありません。
手術のあと、2~3ヶ月は避けたほうがよいこと
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ぶらさがる運動(鉄棒、うんてい、けんすいなど)
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体をひねる運動(バットを振るなど)
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重いものを持ち上げる
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重いリュックサックなどを背負う
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「たかいたかい」をする(普通に抱きかかえるのは問題ありません)
3. 手術後のワクチンについて
手術後の予防接種の開始時期は、輸血や血液製剤(ガンマグロブリン製剤)を使ったかどうかで違います(輸血を使うと、すでにワクチンを打った人や感染したことのある人の血液に抗体が含まれており、ワクチンの十分な効果が得られない場合があるためです)。
予防接種の開始時期は、表1のように推奨されています。
表1:手術後のワクチン接種時期(推奨)
4. 手術後の外来受診について
手術の後の外来受診の間隔や頻度は、病状や薬の内容、必要な検査などで違ってきます。薬が必要なく、病状が安定している場合は、半年や年に1回の外来でよい場合もありますが、担当医の指示に従ってきちんと受診をするようにしてください。
「薬も飲んでないし、元気になったから、もう行かなくてもいいかな?」と自分の判断で受診をやめると、手術して何年、何十年か経ってから、もともとの病気の影響や以前に行った手術の影響で何か問題(不整脈や弁の逆流など)が出てくることがあります。問題が出てきた時に、適切なタイミングで、適切な治療を受けることがとても重要です。
参考ページ
あなたにとって最もよい治療法を、
主治医の先生とよく相談して決めましょう。
最終更新日:2021.11.15